Poisson d'avril (プワソン・ダヴリル)





 かなでと天宮は四月の春の夕方を、ゆっくりと散策し楽しんでいた。満開の桜は花びらは、ひっきりなしに零れ舞っている。広い公園は花見客で溢れているが、しっかりと繋がれた二人の手は混雑をものともしない。
 かなでは天宮を見上げながら得意げに笑った。
「今日はエイプリルフールでしょ?だから嘘を沢山考えたの。まず、ニアに私は静君と結婚するよって言ったの、でもあんまり驚いてもらえなかった」
 それ所か面白くなさそうな顔をされたっけ。
「それからね、昼練でも響也とハル君に言ったのよ。ビックリしてほしかったのに黙られちゃって、すごく気まずかった。やっぱり面白い嘘って難しい」
 うんうん唸るかなでの百面相に天宮は相好を崩した。
「ねぇ、かなでさん。エイプリルフールは午前中しか嘘をついてはいけないのが本式なんだよ」
「えっ!?そうなのっ?知らなかった」
「ふふっ、だから、しようか」
「へ?」
 …こんなに機嫌が良い恋人は大抵、何かを企んでいるということはとっくに学習済みである。かなでは小首を傾げて、非常に胡散臭そうに天宮を見た。
天宮は気にした風もなく、爆弾を投下する。
「結婚しよう」
「…ええぇーーー!?」
 悪戯を思いついた幼い子供のような無邪気さで、かなでの動揺を天宮は愉しむ。ひとしきりパニックを起こしたかなでへ優雅に告げた。
「僕と、結婚してくれませんか?」
 まさか今、言われると思ってもいなかった。
むしろ冗談じゃないからタチが悪い。心臓がせり上がって、口から飛び出そう。
「えぇと、はいっっ!!」
 心臓の代わりに、かなでが唇から出したのは、これでもかと勢いの良い返事だ。ただオモチャのように、ブンブンと首を縦に振る。
「返事は嘘でした、なんて言っても僕は本気だから駄目だよ?取消ナシ」
「う、うん」
「ちゃんと生活出来るくらいは働いているから安心して?かなでさんが高校を卒業したら、一緒に住もう」
 学生結婚も良いものだと思うんだ。天宮は慌てふためく、かなでの手を真心を込めて繋ぎなおす。
 エイプリルフール…に、プロポーズって嘘みたいな話だね。と、かなでは頬を愛らしく染めた。
「嘘、みたいな本当の話だよ。僕は君が大好きだから」
 優しいそれに、かなでは応えるように手を握り返した。






<了>