これは由乃さんと令様だったらっていう妄想です。私、福沢祐巳のあくまで想像(限界があるのは許して欲しいの)
私達は今、結構手狭なホテルの一室に居ます。修学旅行一日目ですが、同室になった由乃さんは初めての海外旅行のせいか熱を出してしまいました。私も海外旅行は初めてで、まったく勝手が分からないけれど熱があるのは苦しいし、由乃さんは去年心臓の手術をしたばかりだから無理はさせられない。具合を悪くしたなら先生に言うべきだけど、修学旅行をとても楽しみにしていたのを知っているから『先生には言わないで』っていう頼みは断れなかった。
「眠ったかな…?」
病弱扱いされるのが大嫌いな由乃さんだから、苦しいのに頑張ってる。でも、考えてしまうわ、これが由乃さんの大好きな令様だったらどうするかって。
本当に私は適切な行動を取ったのかな、令様なら全然違う行動に出たんじゃないかな。
例えば――。
「由乃、やっぱり無理しちゃ駄目だよ」
令様ならそう言いそう。
「でも、どうかなぁ…」
結局ごねる由乃さんに朝まで付き添ってあげちゃいそう、うん。
…それって今の状況と余り変わらないような。
大体、由乃さんに勝てる人なんてあんまり居ないような気がする。そもそも令様はとても由乃さんを大切にしてるっていうか甘いから。
「きっと、やっぱりこうなっちゃうわよねぇ?」
もう、由乃さんは眠ってる。だから一人ごちて、そろそろぬるくなった額の年代物タオルをしぼり直した。
これがお姉様と私だったらどうなったかな。
私が寝込んだら、まず割と最初に慌てて、その次に何だかんだ言ってもタオル位はかけてくれるかしら?
「うーん…‥」
逆にお姉様が寝込んでしまったら、ずっとお側にいるんだけど。
それで絶対に熱を下げさせるの、お姉様は負けず嫌いだから自分だけリタイアなんて考えられないだろうな。
「――会いたいな」
まだ修学旅行は始まったばかりなのに、この距離がもどかしい。会えないと思うと尚更会いたい気持ちでいっぱいになる。不慣れな土地で不慣れな対応を迫られているからなのかもしれない。
ううん、私は――。
何時だって会えたら嬉しいの。会えないと胸が塞いでしまうの。
今、日本は何時かしら。お声だけでも聞きたい、それで「しっかりなさい、祐巳」って叱って欲しいの。
泣きたくなってきて、でもこんなことで泣いてたらお姉様に呆れられてしまうから思いっきり眼をこすった。「帰ったら、お姉様に会えるもの…」
きっと令様は由乃さんをこの瞬間も心配してるに違いない。
お姉様はどうなのかな、ドジな妹は少しは心配かなぁ。
不覚にも涙がこぼれた。ちっとも気にかけていらっしゃらなかったら哀しいかも。ううん、一日目でここまで不安になる方がいけないのよね。
「お姉様…」
夢の中ででも逢えたらいいのに――。
夢路よりかえりて。
夢路よりかえり来よ。古い歌をちいさく口ずさむと、祐巳はそっと目蓋を閉じた。
夢ででも逢えますようにとマリア様に祈りながら――。
《了》